米国CAFC判決のご紹介:REHCO LLC v. SPIN MASTER, LTD.
2019年03月01日
IPニュース
米国
REHCO LLC v. SPIN MASTER, LTD.
Nonprecedential
判決日: 2019年2月4日
Nonprecedential
判決日: 2019年2月4日
1.概要
地裁は、「クレーム文言”a”は「multiple signals」ではない」、と解釈したが、CAFCは、その解釈を認めず、「one or more」と解釈し、地裁に差し戻した。
2.本判決を理解するためにポイントとなるキーワード
クレームで使用される不定冠詞”a”の解釈
3.事件の背景と地裁判決
Rehcoは、飛行中の車両用の制御システムに関する特許を保有。
Rehcoは、Spin Masterを特許侵害を理由に提訴。争点のクレームは以下のとおり。
1. A vehicle having a means for propelling in a vertical direction, further comprising:
a transmitter positioned on the bottom of said vehicle for transmitting a signal from the vehicle downwardly away from said vehicle;
a receiver positioned on the bottom of said vehicle for receiving said signal as it is bounced off of a surface, defined as a bounced signal; and
a control system that automatically sets a speed of the propelling means in response to the receiver...(以下省略),
地裁は、「不定冠詞”a”を”one or more”と解釈することが一般的なルールである。このルールを外れて例外的に解釈することは極力制限される。」と認識しつつも、「同特許は、例外として解釈すべきである」と指摘し、“a single signal being emitted from the transmitter, and not multiple signals.”と解釈した。
地裁は、「Spin Masterの製品は全て複数の信号を使用しているのだから、同製品は同特許を非侵害」と略式判決を下した。
4.争点
クレーム文言の不定冠詞 “a” は”one or more” と解釈されるべきか。
5.CAFC判決
CAFCは、地裁の解釈は誤りと指摘し、本事件を地裁に差し戻す。
01 Communique Lab v. LogMeIn (Fed. Cir. 2012)等によれば、クレームにおける”a”又は”an”は、”one or more”と解釈することが一般的なルールである。
この一般的なルールの例外として、”a”または”an”を”single”に限定して解釈するためには、特許権利者はその明確な意図を示す必要がある。Baldwin Graphic Sys v. Siebert (Fed. Cir. 2008)参照。
更に、「クレーム内で定冠詞”the”または”said”を使用してその前段にある同じクレーム用語を参照しても、この一般的なルールを変更するものでは無い。
Spin Masterは、「クレーム文言”transmitting a signal from the vehicle”の後の文章にて、クレーム文言”receiving said signal as it is bounced off”が規定されており、その文章は”they are”ではなく”it is”と記載しているのだから、クレーム文言”a signal”は”one”を意図している、と主張。
CAFCは、しかし、「”a”が”one or more”を示し、その”a”を参照するとき代名詞”it”を使用する。したがって、代名詞”it”を使用したからと言って、一般的なルールを逸脱して解釈するという明確な意図は存在しない。」と指摘し、その主張を認めず。
CAFCは、単語”a”または”an”に対する一般的な規則に従って、”a signal”を”one or more”と解釈。
地裁は、この誤った解釈に基づき略式判決を下したのだから、本判決を破棄し、地裁に差し戻す。
6.コメント
上述した01 Communique判決では、クレーム文言”a”の解釈について以下の通り示していますので、紹介します。
As a general rule, the words ‘a’ or ‘an’ in a patent claim carry the meaning of ‘one or more.’” TiVo, Inc. v. EchoStar Commc'ns Corp. (Fed.Cir.2008).
The exceptions to this rule are extremely limited: a patentee must evince a clear intent to limit ‘a’ or ‘an’ to ‘one.’” Baldwin Graphic Sys., Inc. v. Siebert, Inc., (Fed.Cir.2008)
The subsequent use of definite articles ‘the’ or ‘said’ in a claim to refer back to the same claim term does not change the general plural rule, but simply reinvokes that non-singular meaning.
An exception to the general rule arises only where the language of the claims themselves, the specification, or the prosecution history necessitate a departure from the rule.
さて、本裁判では、「クレームの不定冠詞”a”を”one or more”と解釈することが正しいと判断しましたが、Wonderland Nurserygoods v. Baby Trend (Fed. Cir. 2018/04/19) (nonprecedential)では、例外を適用して、同文言を解釈しました。同裁判では、地裁は、クレーム文言“a fabric member”を“one or more pieces of fabric”と解釈し、この解釈を元に「争点のクレームは無効」と判決しました。しかし、CAFCは、明細書及び審査経過を参酌し、「正しい解釈は、"unitary elements that separate the interior of the claimed crib from the exterior"であるべき」と判断しました。
このように、不定冠詞”a”についてはgeneral Ruleが存在しますが、クレーム解釈は、内部証拠(クレーム自身、明細書、審査経過)、そして辞書等の外部証拠に基づいて判断されますので、複数を明確に意図したい場合には、明細書に複数も含むことを意図する”a”の定義を設けておくことが一番の安全柵です。(文責:山屋)
8.本判決のリンク先
http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/17-2589.Opinion.2-4-2019.pdf
以上
地裁は、「クレーム文言”a”は「multiple signals」ではない」、と解釈したが、CAFCは、その解釈を認めず、「one or more」と解釈し、地裁に差し戻した。
2.本判決を理解するためにポイントとなるキーワード
クレームで使用される不定冠詞”a”の解釈
3.事件の背景と地裁判決
Rehcoは、飛行中の車両用の制御システムに関する特許を保有。
Rehcoは、Spin Masterを特許侵害を理由に提訴。争点のクレームは以下のとおり。
1. A vehicle having a means for propelling in a vertical direction, further comprising:
a transmitter positioned on the bottom of said vehicle for transmitting a signal from the vehicle downwardly away from said vehicle;
a receiver positioned on the bottom of said vehicle for receiving said signal as it is bounced off of a surface, defined as a bounced signal; and
a control system that automatically sets a speed of the propelling means in response to the receiver...(以下省略),
地裁は、「不定冠詞”a”を”one or more”と解釈することが一般的なルールである。このルールを外れて例外的に解釈することは極力制限される。」と認識しつつも、「同特許は、例外として解釈すべきである」と指摘し、“a single signal being emitted from the transmitter, and not multiple signals.”と解釈した。
地裁は、「Spin Masterの製品は全て複数の信号を使用しているのだから、同製品は同特許を非侵害」と略式判決を下した。
4.争点
クレーム文言の不定冠詞 “a” は”one or more” と解釈されるべきか。
5.CAFC判決
CAFCは、地裁の解釈は誤りと指摘し、本事件を地裁に差し戻す。
01 Communique Lab v. LogMeIn (Fed. Cir. 2012)等によれば、クレームにおける”a”又は”an”は、”one or more”と解釈することが一般的なルールである。
この一般的なルールの例外として、”a”または”an”を”single”に限定して解釈するためには、特許権利者はその明確な意図を示す必要がある。Baldwin Graphic Sys v. Siebert (Fed. Cir. 2008)参照。
更に、「クレーム内で定冠詞”the”または”said”を使用してその前段にある同じクレーム用語を参照しても、この一般的なルールを変更するものでは無い。
Spin Masterは、「クレーム文言”transmitting a signal from the vehicle”の後の文章にて、クレーム文言”receiving said signal as it is bounced off”が規定されており、その文章は”they are”ではなく”it is”と記載しているのだから、クレーム文言”a signal”は”one”を意図している、と主張。
CAFCは、しかし、「”a”が”one or more”を示し、その”a”を参照するとき代名詞”it”を使用する。したがって、代名詞”it”を使用したからと言って、一般的なルールを逸脱して解釈するという明確な意図は存在しない。」と指摘し、その主張を認めず。
CAFCは、単語”a”または”an”に対する一般的な規則に従って、”a signal”を”one or more”と解釈。
地裁は、この誤った解釈に基づき略式判決を下したのだから、本判決を破棄し、地裁に差し戻す。
6.コメント
上述した01 Communique判決では、クレーム文言”a”の解釈について以下の通り示していますので、紹介します。
As a general rule, the words ‘a’ or ‘an’ in a patent claim carry the meaning of ‘one or more.’” TiVo, Inc. v. EchoStar Commc'ns Corp. (Fed.Cir.2008).
The exceptions to this rule are extremely limited: a patentee must evince a clear intent to limit ‘a’ or ‘an’ to ‘one.’” Baldwin Graphic Sys., Inc. v. Siebert, Inc., (Fed.Cir.2008)
The subsequent use of definite articles ‘the’ or ‘said’ in a claim to refer back to the same claim term does not change the general plural rule, but simply reinvokes that non-singular meaning.
An exception to the general rule arises only where the language of the claims themselves, the specification, or the prosecution history necessitate a departure from the rule.
さて、本裁判では、「クレームの不定冠詞”a”を”one or more”と解釈することが正しいと判断しましたが、Wonderland Nurserygoods v. Baby Trend (Fed. Cir. 2018/04/19) (nonprecedential)では、例外を適用して、同文言を解釈しました。同裁判では、地裁は、クレーム文言“a fabric member”を“one or more pieces of fabric”と解釈し、この解釈を元に「争点のクレームは無効」と判決しました。しかし、CAFCは、明細書及び審査経過を参酌し、「正しい解釈は、"unitary elements that separate the interior of the claimed crib from the exterior"であるべき」と判断しました。
このように、不定冠詞”a”についてはgeneral Ruleが存在しますが、クレーム解釈は、内部証拠(クレーム自身、明細書、審査経過)、そして辞書等の外部証拠に基づいて判断されますので、複数を明確に意図したい場合には、明細書に複数も含むことを意図する”a”の定義を設けておくことが一番の安全柵です。(文責:山屋)
8.本判決のリンク先
http://www.cafc.uscourts.gov/sites/default/files/opinions-orders/17-2589.Opinion.2-4-2019.pdf
以上